その罪は君を愛した真実 町に立ち並ぶ店の軒先、ぽたりと落ちる水滴の下に大きな水溜り。空は相変わらず、黒々とした雲を抱えて両手をいっぱいに広げている。その下を鞄をかかげ窪みの水をはねないよう器用に走る人と、赤や青のカラフルな傘をさした子供達の楽しげな表情が通りすぎていく。そしてその横を何食わぬ顔で黒煙を上げて走り行く自分たち。 けたたましい雷鳴と共に降りだした雨に町はすっかり濡れてしまっていた。それは俄雨かと思ったが、いつの間にか長引く雨となって道端の小さな花にも潤いをもたらす。 フロントガラスに打ち付けられる雨音とそれを払おうと躍起になったワイパーの機械音の中で微かに聞こえる柔らかな女性の声にしたがって、ハンドルを握った。 「次の角を左へ」 淡々と、まるで他の事を一切話すものかと決意したように道を示す彼女の横で、私はただ前を見つめるしかなかった。というのも車に乗り込んでから、司令部にいたときに比べて彼女の口数が明らかに減っていたからである。話題が無いといえばその通りだが、それにしても気まずさは隠せない。何か話し出しても、最低限その応答に必要なことしか口にしないため、会話に花が咲くことなどがあるわけも無い。 おそらく、はたから見たら何ともつまらない時間だろう。関係が浅ければ浅いほどに、沈黙とは気まずい。しかしそこにいる私は全く不愉快を感じることもなければ、車内の相手との関係が深いということも無いのにも関わらず、無表情の彼女に苛立つことも無いのである。 それが全て彼女自身である。何も答えないようでいて実は内心でめまぐるしく思惟している。話し方に深い意味がある。それを理解している――だから……。 何も焦ってあれやこれやと話す必要も無い。彼女は彼女のぺスースがあるのだから、それをわざわざ壊していって得るものはおそらく何も無い。そもそもそんな事も考えない無遠慮な人や、他者の心理にずかずかと土足で上がりこむような人との接触を彼女は意識的に遠ざけているのだろう。 無用なことは何も聞かず、時が満ちるまでじっくりと距離を保つこと、無駄な詮索もしないこと。それが彼女の傍にいる事を許される人だと、これまでの短い付き合いの中で悟っていた。 「……ミス・」 「やめて下さらない?」 「え?」 刹那、屋敷で再会した時の一言が頭をよぎった。“お互いに望まないことは止めましょう”彼女はそんな事を言って、見合いの相手を追い出そうとした。 しかし私自身は完全な拒否を示していない事を話した今、それを言って何になるのか。 彼女の口からこぼれ出る言葉にそっと耳を傾けると、すぐにその疑問は消えたものの、陥ったのは不思議な思いの中である。 「……その呼び方です」 今の今まで、彼女は呼び方に対して言及することはまずなかった。何故今になってわざわざこんな事を言い だすのか、まるで分からなかったのである。それは、いつもの彼女の事務的な要求とは全く違うものであった。 不思議そうにするロイに気が付いたのか、はたまた会話の流れとしてなのかは確かでないが、窓の外を無表情に眺めたまま、は理由を感情も一切込めず淡々と話す。 「嫌いなのよ、その呼ばれ方」 「と、言うと……」 「“”と呼ばれるのが嫌、ということ」 それはただ単に父からの圧力に対する反抗心なのか、と思いはしたが口に出して聞くことはできなかった。それこそ彼女との距離を無理に縮めることになりえると思ったからだ。 「次、その道は右よ」 うまい具合に話を変える彼女は、やはりそうだ。呼び方でさえ、そうしてもらう理由を詳細に話すことはしないようである。それに苦い顔一つせず、何を言う事もできず、ロイも言われた方向に車を進めた。 こんな彼女の身勝手さとも取れる行動の数々にも、もう慣れていた。彼女の秘密主義にもきっと何か裏があるというのが、常々自分に言い聞かせている言い訳。 今はただ、彼女の意思を尊重する事が最優先事項。まだ信頼を寄せていないということが、一層彼女の寡黙の傾向に拍車を掛けていることも、薄々気が付いていたからだ。なかなか、彼女の思考も複雑らしい。 「ではファーストネームでお呼びすることになりますが?」 「私は全く構わないわ。名前なんてそんなに大きな意味を持たないもの。どんな物にだって名前はあるけれど、どれも人が勝手な区別や、伝達のためにつけただけですから」 まるで矢の様な鋭い言葉が次々に彼女の口から放たれ、それはまるで鉛が据え付けられているように、深く重く、心に刺さる。きっと彼女はじっと長く、計り知れない量の思考を働かせて、こういったことを考えては、自分を説き伏せてきたのだろうか。哲学的事柄に、独学の論理でできる限り納得できる形をとるように。だからこそ、それらには熟考した彼女の思いがこもる。しかしそれは同時にどこか主観的で偏った考え方にも繋がる。 いくら視野を広げ、客観的にあることを念頭に置いていても、必ずどこかでエゴは現れる。人とはそういうものだ。そういったことで知らず知らず偏見は生まれ、自分を固めていくのである。 自分につけられた名までも、軽んじる必要がどこにあるのだろう。 いくら親の過保護に対する不満が積もり積もっていたとしても、そこまで嫌悪の情を抱く理由になるだろうか。両親がしていることは、何より彼女の身を心配してのこと。それを彼女自身、きっとわかっているはずなのに何故……。 「何か不満気ね」 しばらく黙っているとはいつの間にか窓から目を放し、運転席に座るロイをじっと見据えていた。 「いえ……」 「言いたい事ははっきりと言っていただきたいわ」 「……ご両親がつけてくれた名前は、ただものを区別するだけのものでは無いと思うだけです。ただ物を区別するだけの名ならば、“A”や“B”でいいわけですから」 「しかし、区別する点では同じです」 「確かにそうでしょう、しかし貴方の名前に価値はゼロでは無い。あなたを愛する人が、考えて一つを決めてくださったのですから」 続く返答は無かった。一人で考えていた時にはなかった、他の着目点を目の当たりにしての戸惑いかと思ったが、どうやらそうでは無いらしい。横目で表情を読み取る限り、指摘された視点からみた問題を思慮している勝手ではなかった。引き締まった口元に浮かぶ色なく、瞳の様相は一種の諦めに見えた。それも精神的に浅いものではない事が見て取れる。それは彼女の根本的なものを揺るがす可能性を秘めるくらいに、深刻な色を帯びていたのである。 話題を変えるべきだと思った。彼女に尋ねてはぐらかされても構わないと、とにかく彼女からこの表情を剥がしたいと願った。 「……珍しい色の宝石ですね」 すると彼女は自分の胸元にあるペンダントに指先で触れた。少し大判で楕円形の紺碧。銀の鎖がそれを首につなぎとめ、その病的に白い首下に良く映える。 「サファイアにしては色が濃いように見えますが」 「……そうね。私もそう思ったわ」 先に比べ、だいぶ落ち着いた声色である。 「先日、父が私に下さったのだけれど宝石の名まで明かさなかったのよ。サファイアにしては異常に黒みがかっているから、加工の際に弾かれたものかとも思ったけれど」 「父上がそんな安いものを娘に贈るわけが無い、と?」 彼女はくすりと笑って適当に同意した。それきり、彼女はだんまりを決め込む。 「……答えたくなければ答えなくとも良いのですが」 「…………」 「なぜ、今日もまた家を出てきたのですか」 「……なんでもないわ、家にいるのが嫌だっただけよ」 少しだけ答えに詰まったようではあったが、言葉にため息を含ませながらも何食わぬ顔である。 「初めてあった日も、貴方は街に一人でいらっしゃった。君がご自宅に居たくないのはいつものことでは無いのでは?」 「さぁ。どうかしらね」 「貴方はいつも、そうして話をはぐらかす」 「余計なことを話さないのだもの。口が堅いと言って欲しいものね」 それだけ言って、彼女はまた再び窓と向かい合って黙り込んでしまった。機嫌を損ねることはなかっただろうが、彼女の行動には焦りにも似た感覚を覚えた。 ハンドルを握る手がじっとりと汗ばむのが分かる。そんな私とは全く対照的に、彼女は落ち着き払ってそこにいて、相変わらず自らを話す事を拒んでいる。身動き一つせず車のシートに身を預け、ワンピースからのぞく白く細い足を組んでいた。濡れた髪も既に乾いて、少しの空気を含んでふわりとその肩に流れる。車が揺れるたびに、彼女の身体も揺れた。その間も腿に置かれた指が忙しなく動いている。 「では貴方がこうしていることを知る方は、お屋敷にいるのですか」 矛盾していると思う。彼女の詮索をこれ以上してはいけないと知っているのに。 「……ええ、一応何かあったら大変だから」 これは一つの大きな賭け。早すぎるくらいの自分の決断。 「しかし父上は知らない、というのも不思議な話だ」 「……なぜ?」 彼女は視線を窓から離し、この問答に身を乗りだしていた。どんなに自分の感情を押し殺そうとしていても、こういったことへの興味は人一倍強いらしい。それをわかって、なお続けた。 「氏は厳しいように見えましたから。きっと使用人たちにも隠し事はさせないように思ったのです」 「でも、それを知る人は父との関係より、私との関係が重要だとしたら?」 その時、思わず私の口元は緩んだ。 「ええ、それで貴方付きの使用人はどうやって貴方が外に出ていることを知る事になったのですか」 彼女は眉をしかめ、瞳を揺らす。一心に私のほうを見つめている。それも、冷え切ったあの瞳で。 「なぜ私付きの使用人、と?」 口調が益々固くなり、それはとても小さな声。 「私が使用人と言った時点で、貴方は不審に思うべきでしたね」 「……油断ならない人ね、カマをかけるなんて」 既に彼女は全てを悟ったらしい。そして自分の不甲斐なさにがっくりと肩を落としているようにも見える。それには私に対する怒りもあっただろうが、そんなものよりもずっと大きな自分の愚かさが気に食わなかったらしい。 「君との関係ともなれば、とても身近な人ということになると思ってね。軍の中で上に行くにはこういう力もいるのですよ、嬢」 「ふん、そこまでして知るようなことでも無いでしょう?」 「興味があるんです、貴方がわざわざ自分の悪事を他人に教える人でもない。簡単に口を開く人でも無い事は知っていますから、尚更ね」 すると民家へと続くさらに小さな路地から飛び出した猫。それに道をあけるべく、ゆっくりと停まった。猫が反対側の歩道に足を掛けたことを確認して、また少しアクセルに力を込める。 「……彼女、私の親友なの」 益々激しさを増す雨。車の脇を通り過ぎる人影も少なくなっている。彼女の口からはその言葉だけ。バタンバタンと、絶え間ないワイパーの音が虚しく響いた。 “これ以上は言いたくない”という意味か、彼女の指先の動きは止まった。 いよいよ家には何かあるのではないかと思い始めた。旧家というものも、やはりその名を守るために、裏でいろいろな事があることぐらい容易に想像していたこと。 彼女がそっと抜け出して外界とつながりを持ったのはきっとここ数年のことだろうから、その親友が一般の家の出とは考えにくい。親友と呼べるまでの関係なら、気兼ねなく家を行き来できるくらいの家の者であるはずだ。 ではなぜ彼女の親友ともあろう人が、家に使用人として雇われる事になるのだろうか。考えられる可能性は……。 そうして懸命に考える私を尻目に、彼女は何も言わない。どう考えたって最終的に確認を取らなければ、いくら自分の推理とはいえ、結論は事実とはならない。 しかし心のどこかで、家のことは関係ない、全くどうでもいい事だという思いがあるのも事実。冷徹なまでの彼女の言動を解きほぐす事ができれば、そして彼女の心さえ捉えることができたなら、複雑な大人の事情は、その飾りでしかなかったのである。 ただその思いとは裏腹に、何を思っても彼女は聞いてくれない。真剣に告げた言葉でも、それを本当の事と思っていないのだろうか。人が言うことには一欠片も真実が無いと、そう思っているのだろうか。 だとしたら、自分にできることはあるのか。 彼女の多くを知るのにやはり必要なのは、彼女の信用である事に間違いは無い。悲しそうに話す姿も、あの家にいるときの気持ちも全てを拭い去ってやるためにも。 「君の信用とやらを、得たいものだ……」 鼓膜に響いたその言葉は、すぐに消えうせた。ぽつりとこぼした独り言は、それでも確かに彼女の耳には届いていた。 ふと車道を横切ろうとしている子どもの姿を認めた。急ぐことも無いだろうと殆ど気にすることもなく車のスピードを緩めると、小さな男の子がちょこんと頭を下げ、満面の笑みを浮かべながら青い長靴を進行方向真っ直ぐに向けて走っていった。 すると、隣に座る無口な彼女の視線が少年の消えて行った道に注がれていることに気付く。 「……子どもがお好きなんですか」 「え?」 車の発信音に消えそうな音。 「あの少年が気になっているようだったので」 「……いえ。少し考え事を、ね」 「それはお聞きしても良いという事ですか」 微かな溜め息にも似た笑い声は、きっと肯定を意味しているはずである。 「貴方は人に尋ねることも許可を取ろうとするのね」 「貴方だからですよ」 その言葉に、彼女からは何の反応も無い。あの角を右に曲がってと言ってしばらくの沈黙。しかし次に口を開いたのは彼女であった。 しかし思いもしなかったその内容は、一気に思考回路を働かせるに誘う。 「貴方にも、子どもの頃の思い出はあって?」 聞き返す事もできなかった。彼女がそう尋ねる事の意図が全くつかめなかったからだと言うこともあるが、それ以上に余りに未熟な発言――誰もが知っている当たり前の事を彼女は聞くからである。 「ええ……しかし、そんな事を聞いてどうしたいのです?」 「ただの興味よ。貴方はどんな所にいらっしゃったの?」 「生まれは北部ですから、寒いと言うのがまず一番ですね。それに、まあそんな気候のせいもあってか、少なくとも貴方のような恵まれた環境には居ませんでしたよ」 「……そう」 彼女の目はゆっくりと伏せられて、窓越しに過ぎ行く街並みを視点を合わせることもない。ロイもその姿に何も言わない。言ってはならない。 何とも言えない曖昧が漂う空間に浮かぶ二つの影。どこに流れ着くとも知れず、また存在のみを認めた様子はまるで生き物とは思えない錯覚を呼ぶのである。その茫洋たる海にも似た空気に、一つの揺れが静かに波紋を広げた。 「ここで私の話をするのが一般の方の感覚なのでしょうが……。残念なことに私に、話して差し上げるような思い出は無いのです」 「家に閉じ込められていて、と言うのでしょう?」 その問いを彼女は静かに否定したが、その真意に気が付き、自分に疑問を持ったのはほぼ同時のこと。 そんな事があっていいはずが無い、彼女に一体何があった? そんな結果を招くように酷な事が、その細い儚い身に降りかかったとでも? 次々に、まるで空から降る雨が地に落ちるように、絶え間なく思いは生まれて弾けていった。 「一体……何故……」 「……それが、分からない。父上もこの事に関しては全く口を開かないから、知る事もできない」 「それは、いつからですか」 「10年近く前、正確には8年前より前の自分を知らないの。16歳から、まるで乳飲み子と同じように、私は再び歩みだしたってことね」 「…………」 これ程の事を何故今まで知ることができなかったのだろう。それは触れない様にしてきた彼女自身の核心とも言うべきものに迫る事だったから? しかし彼女が話さずとも、その重要事項を氏も一切口にしないとは、おかしくないだろうか。それともこの事を話すも話さないも、全て娘に一任しているとでも? そして彼女は言う事はこれ以上無いと、長く息を吐き出して言うのである。 「…………ここでいいわ」 シートベルトをはずしにかかる彼女。静かにブレーキを踏んだ。車が道端に停車すると、すかさず彼女はイ静かに言ったのである。 「送ってくださってありがとう」 「本当にここで?」 「ええ、これ以上お屋敷に近づいても見つかってしまうでしょうから」 大通りから少し離れた脇道に停まった一台の車。まだ彼女の目的地は見えていない。ここから徒歩で行くとすれば、きっと帰り着く頃には雨でこれ以上無いほどに濡れてしまうだろう。傘を手に持ち、彼女を迎えにいこうと車を出ると、はそれが待てないとでも言うように私と同じタイミングでドアに手をかける。 「待ちなさい、いま傘を」 「いいわ」 そのまま彼女はドアを開け、その足を石畳の道につけた。急いで彼女の側に回りこむも、彼女の髪は既に雨に濡れ、そこから雫が一つ、地に落ちた。彼女はそれでも何も言わず、うつむき立っていた。 「風邪をひく」 そっと、彼女に傘を差しだしたが、それは直ぐ彼女に押し返されてしまう。 「同情の、優しさはいらないわ」 「いきなり何を。同情など持ってはいません、貴方に幼い頃の過去が無くともそれが何だと言うのです? 大切なのは何よりも今ではないのですか。……それにハボックの申し出を断って、私がここまでお送りするように仕向けたのは貴方だ」 「私は本当に煙草の香りが好きじゃないの。だからお断りしたまでです。それに、代わりが貴方でなくても良かったのよ。まさか軍部に車の運転ができる人が貴方一人では無いでしょう?」 「貴方の事情を分かる人のほうが良いと思ったんだが」 「何を知っていたと言うの? 貴方が知る私なんて、本当に断片的なものでしょう。先程の話でそう思いはしなかったのですか? それに黙ってここまで送っていただければ、何もまずいことは無いわ。偽名で困ることなんて無いもの」 彼女の瞳に宿ったものを一体なんと呼べば良いのか、分からない。 「それに、人は過去の上にあるものよ。過去が有る人にはそれが分からないだけ。土台を失ってしまったら、絵も音楽も美しい花でさえ咲き誇ることはできないのです」 ただ彼女の言う事が全て正しいように聞こえて、胸が苦しくなるのである。 「失礼します、国軍大佐殿」 そして彼女は、私の青い肩の横に歩を進めた。一体なんと返すのが良いのかわからず、何もいえない。 そのまま、彼女がそこから去ろうとした時である。 「!」 彼女の進んでいた方向、つまり自分の背後から彼女の名を、それも実名を呼ぶ若い男の声が街路に響く。気付けば、先ほどまであんなにも躊躇われていたというのに、いつの間にか振り返り、彼女の背を見つめていた。 両側に建ち並ぶレンガ造りの家に挟まれて佇む想像以上に小さく見えた彼女の後姿が、微かに震えている気がした。自分の言動への後悔と焦りと、彼女が離れてしまうかもしれない恐れや不安に押しつぶされそうだった。 彼女は顔を上げてただ人の立つ前方を見つめて立ち止まっている。 そしてロイもまた、その視線を少し上げて彼女の名を呼んだと思しき人の姿をとらえた。 背はロイと同じくらいだろうか。真っ黒い傘を差し、たった一人雨を避ける。その、と名を呼んだ男は、まるで犯罪者を見るような冷たい視線でロイを鋭く睨みつけていた。 |